指定難病10『シャルコー・マリー・トゥース病』とは?
1. シャルコー・マリー・トゥース病の説明
「足がよくつまずく」「ふくらはぎがだんだん細くなってきた」――そんな変化を感じたら、それは末梢神経の異変かもしれません。
シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は、手足の末梢神経(脳や脊髄以外の神経)が遺伝子変異により少しずつ機能を失っていく、遺伝性の神経疾患の総称です。
典型的には手足の末端(足や手先)から筋力や感覚が低下し、歩行障害やしびれ、感覚異常が現れます。
発症年齢や進行速度、症状の現れ方には個人差が大きく、軽症のまま長年経過する方もいれば、進行して介護が必要となる方もいます。
長期にわたる支援と理解が必要な、まさに「一生付き合う」病気です。
2. わかりやすい説明
この病気を例えるなら、「神経という道の舗装がだんだんボロボロになって、信号(体を動かす命令や感覚)が伝わりにくくなる」ような状態です。
本来、脳からの「歩け」「手を動かせ」という指令は、末梢神経を通って筋肉に伝わります。
しかし CMT では、その末梢神経のどこかに障害が起きるため、「指令が遅れる」「感覚が鈍くなる」「筋肉が反応しづらくなる」といった「体の動きの乱れ」が起こります。
そのため、歩きにくさ、つまずきやすさ、疲れやすさ、手先の不器用さ、冷え・しびれなど、見た目には分かりにくいけれど「いつもとちがう不調」が少しずつ出てきます。
まるで、古くなった電線のように、少しずつしか信号が流れない。
けれど、使い続けることで、新しい技術(リハビリ・補助具)で「少しでも快適に暮らす道」を探すことができる――それが、CMTとの向き合い方です。
3. 主な症状
CMTの代表的な症状は以下の通りです。
- 下肢(特に足・すね・ふくらはぎ)の筋力低下・筋萎縮:歩き出しにくい、足が上がらない(フットドロップ)、歩幅が小さくなる、つまずきやすくなる。
- 感覚の異常:足や手のしびれ、冷え、痛み、感覚の鈍さや麻痺など。
- 足の変形:ハイアーチ(高い足のアーチ)、つま先の変形(ハンマートゥ)、足首の不安定など。これにより歩行がさらに困難に。
- 手や腕への影響(進行時):手先の不器用さ、字を書く、ボタンを留めるなど細かい動作の困難。
- その他の可能性:腰痛、関節の拘縮、便秘、自律神経症状など、サブタイプや進行度によって異なる合併症がみられることもある。
進行の仕方は人それぞれで、数年で症状が安定する人もいれば、ゆっくり長期間にわたり進む人もいます。
4. 原因と研究の動き
CMT は「遺伝性」の病気で、これまでに少なくとも 40種以上 の原因遺伝子が確認されています。
代表的な遺伝子として、末梢神経の「絶縁材」にあたるミエリン(髄鞘)に関係するものや、神経軸索そのものに関係するものがあります。
遺伝形式や遺伝子の違いによって、症状の出方や進行までの期間、影響の範囲は大きく異なります。
また、同じ家系でも人によって発症年齢や症状が変わることがあります。
研究の進展により、病態の理解は深まりつつありますが、神経障害がどう進行するか、なぜ人によって差があるのか――そのメカニズムは完全には解明されておらず、遺伝子治療や新たな治療法の研究が継続されています。
5. 治療法
残念ながら、現時点で CMT を根本から治す治療法は確立されていません。
そのため、主な対応は「対症療法」と「生活の質を維持する支援」となります:
- 理学療法・作業療法:歩行訓練、ストレッチ、関節の可動域維持、筋力維持など。
- 補助具・装具の活用:足首装具、杖、歩行器、靴の工夫などで歩行を補助。足の変形には、インソール(中敷)や矯正靴が使われることもあります。
- 外科的治療:足・足首の変形が高度な場合には、整形外科手術による矯正が行われることがあります。
- 研究・開発動向:薬物療法や遺伝子治療の研究が進行中で、将来的な根本治療への期待があります。
6. 患者数
国内における CMT の有病率は、報告や調査によって幅がありますが、人口10万人あたり 5~40人 とされ、多くの報告では 少なくとも2,000人以上 の患者さんがいると推定されています。
ただし、症状が軽い、発症年齢が遅い、診断されていない例もあるため、実際の患者数は報告以上の可能性があります。
7. 家族・介護職が意識したい支援のポイント
CMT の患者さんを支えるご家族や介護職の方にとって、以下のような配慮が重要です:
- 歩行時の安全確保:足の筋力低下・感覚低下により転倒リスクが高いため、手すりの設置、滑りにくい床、夜間の照明、履物の見直し、補助具(杖・歩行器・足首装具など)を早めに導入しましょう。
- 日常動作の支援と自立維持のバランス:手先の不器用さや足の弱さがあっても、「できること」を尊重し、過度な介助にならないよう心がけることが大切です。
- リハビリ継続の支援:理学療法・作業療法などを定期的に行えるよう、多職種と連携。関節拘縮や変形、筋力低下の進行をできるだけ抑えるための継続が重要です。
- 装具や福祉用具、住環境の整備:適切な靴、矯正具、杖、手すり、バリアフリーの住環境などで、日常生活を安全かつ快適に。
- 本人の思いや心理的サポート:進行性でありながら症状の出方に個人差があるため、不安や焦り、孤立感などが生じやすいです。病気の理解を深め、ご本人の意思や尊厳を尊重する支援、家族・介護職間での情報共有、定期的なメンタルケアを忘れずに。
8. まとめ
- CMT は末梢神経の遺伝性疾患で、手足の筋力低下・感覚低下が特徴です。
- 発症年齢や進行速度、症状の現れ方は個人差が大きく、「軽症」「進行例」「遅発例」など多様なケースがあります。
- 根本治療はまだ確立されていませんが、理学療法・補助具・整形外科治療などで生活の質を維持することが可能です。
- 介護や支援では、安全な住環境、補助具、リハビリの継続、本人の自立尊重、心理的ケア、福祉サービスの活用が重要です。
- 患者数は少なくないものの、症状が軽い例も多く、未診断の可能性もあるため、早期発見と適切な支援体制が鍵となります。
参考引用)公益財団法人 難病医学研究財団『難病情報センター』ホームページより。
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