指定難病13「多発性硬化症/視神経脊髄炎」とは?
1. 多発性硬化症/視神経脊髄炎の説明
ある日、手足がしびれて動きにくかったり、急に目がぼやけたり――そんな異変に気づいたとき、中枢神経(脳・脊髄・視神経)で「電線の被膜」が次々に傷ついてしまう病気かもしれません。
多発性硬化症(MS)は、神経のまわりを守る「髄鞘(ずいしょう)」という被覆が免疫の異常によって壊され、多発的かつ時間的に繰り返し炎症が起きる慢性疾患です。
一方、視神経脊髄炎(NMOSD)は、視神経や脊髄を主に攻撃する自己免疫性の脱髄性疾患で、視力低下やしびれ、麻痺が特徴です。両者を合わせて「MS/視神経脊髄炎」と呼ばれ、指定難病13に認定されています。
2. わかりやすい説明
体の中には、脳や背骨の中を通る「神経」という大事な“情報ケーブル”があります。
このケーブルは、普通の電線のように「情報(命令や感じたこと)」を伝えるために、ビニールの“絶縁被覆”――これが「髄鞘」というもの――で守られています。
多発性硬化症/視神経脊髄炎では、その髄鞘が免疫の暴走で壊されてしまい、ケーブルの被覆なしでむき出しの状態になります。
つまり「雨風にさらされた電線」みたいなもの。
だから信号がうまく伝わらず、「手足がしびれる」「目がぼやける」「歩きにくい」といった症状が出てしまいます。
また、この“被覆の破れ”は一度だけでなく、時間をかけてあちこちで起きたり治ったりを繰り返すのが特徴です。
だから「よくなった」「また悪くなった」を繰り返す人も多いのです。
3. 主な症状
多発性硬化症/視神経脊髄炎でみられる代表的な症状には、以下のようなものがあります:
- しびれ・脱力・麻痺 — 手足がふるえたり、力が入らなかったり、歩きにくくなることがあります。
- 視力の異常 — 片目または両目の視力低下、視野が狭くなる、物がぼやける、痛みを伴うことも。
- 運動の不調 — 歩行障害、バランスの不安定、ふらつき。
- 疲労感・だるさ — 疲れやすさ・倦怠感が慢性的。
- 排尿・排便障害 — 尿意異常、便秘または失禁などが生じる場合あり。
- 認知機能障害・精神症状 — 判断力の低下、集中力の低下、気分の変調などが見られる場合もあります。
症状の出かたは人によって違い、同じ人でも「ある日はよく、別の日は悪い」と変動することがあるのが、MS/NMOSDの特徴です。
4. 現在分かっている原因と研究の動き
- 多発性硬化症(MS)は、自己免疫反応により、髄鞘を構成するミエリンが壊される疾患と考えられています。つまり、体の免疫が誤って自分の神経を“攻撃”してしまうのです。
- 視神経脊髄炎(NMOSD)は、血液中に存在する自己抗体、特にAQP4抗体(アクアポリン‑4抗体)が関与するタイプが多く、この抗体が視神経や脊髄で炎症を引き起こします。
- なぜ自己免疫が起こるのか――遺伝要素や環境要因などが関与するとされますが、原因は完全には解明されておらず、現在も研究が続いています。
- 近年では、従来の治療に加えて、新しい「疾患修飾薬(DMD:disease‑modifying drugs)」が増えており、再発予防や症状の軽減に役立つとされています。
5. 治療法
多発性硬化症/視神経脊髄炎は、現在「完治させる治療」は難しいものの、病状の進行を抑えたり、発作をコントロールしたりする治療法が存在します。主なものは次の通りです:
- 急性期治療:ステロイドパルス療法、血漿交換、免疫グロブリン療法などで炎症を抑える。
- 維持療法(再発予防):疾患修飾薬(DMD)――たとえば最近では複数の薬が承認されており、医師と相談のうえ適切な薬を選ぶ。
- リハビリテーション・生活支援:理学療法、作業療法、歩行訓練、日常生活支援、福祉用具の活用などで、生活の質(QOL)の維持をめざす。
適切な治療とケアによって、発作後に症状が回復することもあります。
ただし、病変が軸索(神経そのもの)にまで及ぶと、回復が難しくなる場合もあります。
6. 患者数
国内では、MS/視神経脊髄炎の患者数はおおよそ 2万人程度 とされています。
ただし、症状の出方には個人差があり、軽症で診断が遅れる例や、未診断例もあるため、「報告数」より実際の患者数は多い可能性があります。
7. 家族・介護職が意識したい支援のポイント
MS/NMOSDの介護や支援において、大切な視点は以下の通りです:
- 発作時の早期対応と安静 — 視力障害や麻痺が出た時は、無理せず安静と専門医受診を優先。
- 継続的なリハビリと生活支援 — 発作後の回復を助けるリハビリだけでなく、日常生活の安全確保、バリアフリー、福祉用具の活用。
- 再発予防のための服薬管理と環境配慮 — 医師の指示に従い、薬を継続。ストレス、睡眠、体調管理に気をつける。
- 心理面・社会的支援 — 突然の障害や見えにくさ、気分の変化があるため、本人と家族の不安や孤立を防ぐ支援と情報共有。
- 医療・福祉サービスの活用と情報収集 — 専門医、地域のMS/NMOSD支援ネットワーク、訪問リハビリ、相談支援制度などを早めに利用。
8. まとめ
- MS/NMOSD は、中枢神経の髄鞘が免疫により壊される自己免疫性脱髄疾患です。
- しびれ、麻痺、視力低下、排尿障害など多様な症状があらわれ、発作と回復を繰り返しながら経過します。
- 根本治療はまだ難しいものの、急性期治療と再発予防薬、リハビリにより、生活の質を保つことが可能です。
- 患者数は約2万人。希少とはいえ、身近に起こりうる病気として、早期発見と適切なケアが重要です。
- 家族・介護職は、発作対応・日常支援・再発予防・心理的支援・医療・福祉サービスの活用を意識し、ご本人の尊厳と安定した生活を支えることが求められます。
参考引用)公益財団法人 難病医学研究財団『難病情報センター』ホームページより。
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