指定難病14『慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチー』とは?
1. 病気の説明
「手足がだるい」「階段を降りるとき、足が重く感じる」といった違和感が、数か月以上続いたら――それは末梢神経の“被覆”がゆっくりと傷ついているサインかもしれません。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)/多巣性運動ニューロパチー(MMN)は、体の末梢神経を守る“髄鞘(ずいしょう)”が、自己免疫の異常で少しずつ破壊されることで、脳から手足への「命令」や「感覚」が正しく伝わらなくなる神経疾患です。
筋力低下やしびれ、歩行障害などをきたし、進行性または再発性の経過をたどることが多く、指定難病14に認定されています。
2. わかりやすい説明
私たちの体には、電気のような信号を脳から手足へ送る“神経の線”があります。
この線は、電線のように「被覆(絶縁体)」で覆われていて、信号がスムーズに届くようになっています。
ところが、CIDP/MMNでは、この“被覆”が免疫のしくみによって破れてしまう――つまり「裸の電線」になってしまうのです。
その結果、電気(信号)が途中で弱くなったり、途切れたり。
「手を動かせ」「歩け」という命令が筋肉にうまく伝わらず、筋力が弱くなったり、感覚が鈍くなったりします。
たとえば、普段は普通に歩けるのに、階段や坂で足がもたついたり、服のボタンを留めにくくなったりする。
それが少しずつ、あるいは波を伴って起きる――そんな病気です。
きちんと治療すれば、回復したり症状をおさえたりできる可能性があります。
3. 主な症状
CIDP/MMN でみられる典型的な症状には、次のようなものがあります。
- 筋力低下:手足の力が入りにくく、階段を上がる/降りる、立ち上がる、歩くといった動作がしにくくなる。
- しびれ・感覚障害:手足にピリピリ・チクチクした感覚、感覚の鈍さ、熱さ冷たさが分かりにくくなる。
- 歩行障害・バランスの乱れ:ふらつき、つまずきやすさ、転倒の危険性。
- 筋萎縮・筋力低下の進行(特に MMN では漸進性):筋肉が細くなったり、萎縮が進むことがある。
- 慢性的な再発・進行:数か月~数年かけてゆっくり進行、あるいは繰り返すことが多い。
症状の現れ方や進行速度には個人差が大きいため、「軽いしびれだけ」「ゆっくり進行する」など、さまざまなケースがあります。
4. 原因と現在の研究の動き
この病気の主な要因は、自己免疫による末梢神経の髄鞘(ミエリン鞘)の攻撃と考えられています。
免疫のしくみが、何らかのきっかけで“自分自身の神経”を異物とみなして攻撃を始めることで、脱髄が起きるとされています。
しかし、「なぜそのような免疫異常が起きるのか」「なぜ人によって症状や経過が違うのか」など、詳しい発症のメカニズムについては、いまだ完全には解明されていません。
現在も、免疫の異常を調べる研究や、脱髄を止めたり神経を守ったりする治療法の開発が進められています。
5. 治療法
CIDP/MMN に対しては、根本治療は確立されていません。
しかしながら、次のような治療・ケアが標準的に行われ、症状の改善や進行の抑制が試みられています。
- 免疫グロブリン療法(IVIg/皮下注Ig):免疫の異常を調整し、筋力や感覚の改善を目指す。
- ステロイド療法:炎症を抑える目的で使用。ただし MMN では効果が限定的、場合によっては増悪の可能性もあるため注意。
- 血漿交換療法などの血液浄化療法:重症時や急な悪化時に、血液中の異常な免疫成分を取り除く。
- リハビリテーションと日常生活支援:関節の柔軟性維持、転倒防止、歩行補助具の導入などで生活の質(QOL)の維持を図る。
定期的な治療とケアを継続することで、多くの患者さんが日常生活を維持または改善できています。
6. 患者数
日本国内におけるこの病気の医療受給者証の保持者数は、令和元年度で 約4,617人 と公表されています。
また、より最近の調査では、2021年における推定患者数は 約4,180人 と報告されました。
このように、まれな疾患であるものの、一定数の患者さんが国内にいることが確認されています。
7. 家族・介護職が意識したい支援のポイント
患者さんを支える家族や介護職の方が気をつけたい支援のポイントは以下の通りです:
- 無理のない生活リズムを保つ — 筋力低下や疲労、再発の恐れがあるため、過度な負荷や無理な動作を避け、休息を十分に取るよう配慮。
- 転倒予防・安全な住環境の整備 — 手すりの設置、滑りにくい床材、夜間照明、杖や歩行補助具の準備などで移動を安全に。
- 医療と福祉サービスの活用 — 指定難病制度による医療費助成、訪問リハビリ、福祉用具の貸与や購入支援、相談支援などを活用。
- 継続的なリハビリと機能維持 — 筋力・柔軟性維持、関節拘縮の予防、歩行訓練などを多職種と連携して行う。
- 症状の変動に備えた柔軟な対応 — 症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すことがあるため、本人の状態をよく観察し、医療・介護計画をその都度見直す。
8. まとめ
- CIDP/MMN は、末梢神経の髄鞘が自己免疫により破壊されることで生じる、慢性または再発性の神経疾患です。
- 筋力低下、しびれ、歩行障害、感覚障害など多様な症状が起こり、進行や再発を伴いやすいことが特徴です。
- 根本治療は未確立ですが、免疫療法・血液浄化療法・リハビリを組み合わせることで、症状改善や進行抑制が期待できます。
- 患者数は国内でおおよそ数千人規模。希少疾患ながら、決して“特殊すぎる”ものではありません。
- 介護・支援では、無理をさせず安全と安定を確保しながら、医療・福祉サービスを積極的に活用することが、ご本人の尊厳と生活の質を守る鍵です。
参考引用)公益財団法人 難病医学研究財団『難病情報センター』ホームページより。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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