【指定難病15】『封入体筋炎』とは?症状・原因・介護でできる支援について分かりやすく説明します!【介護】

指定難病15『封入体筋炎』とは?

1. 封入体筋炎の説明

「最近、階段の上り下りがつらい」「物をつまむ力が落ちてきた」――そんな変化が、実は筋肉の病気の始まりかもしれません。

封入体筋炎(IBM)は、主に50歳以上で発症する、ゆっくり進行する筋肉の病気です。
大腿部(太ももの筋肉)や手指などの筋力が徐々に落ちていき、階段の昇降や手先の作業が難しくなります。

筋肉を調べる「筋生検(きんせいけん)」で特徴的な「封入体(縁取り空胞)」が確認されることで診断され、現在のところ決定的な治療法は確立されていないため、長期的な支援とケアが必要とされる指定難病です。

2. わかりやすい説明

想像してみてください――筋肉は、よくスプリングやゴムのような弾力と力を持つ“動く布”のようなものです。
しかし、封入体筋炎では、この布の中が少しずつ“傷んでほころび”、力を出しにくくなってしまいます。

たとえば、階段を上るときにいつもより膝が重く感じたり、雑巾を絞るような細かい動作が難しくなる、あるいは指先で小さな物をつまむのに力が入らなくなる――そんな症状が現れます。

また、この病気はゆっくり進むため、「ちょっと歩きにくいと感じる」段階では自分でも気づきにくいことがあります。

診断には筋肉の一部を調べる検査が必要で、「この筋肉はもう以前のように弾力がない」「傷みがある」という“中身の劣化”を確認することで、はじめて病気とわかるのです。

つまり、見た目ではわかりにくくても、身体の中では確実に変化が進んでいる――その特徴を理解しながら、適切な支援を考える必要があります。

3. 主な症状

封入体筋炎でよくみられる症状は以下のとおりです。

  • 歩行障害・階段昇降の困難:大腿(太もも)の筋力低下により、立ち上がりや歩き始め、階段の上り下りが難しくなる。
  • 手指・手首の筋力低下:ドアノブを回す、ボタンを留める、箸を使うなど、細かい手作業が難しくなる。
  • 筋萎縮(筋肉のやせ):特に大腿四頭筋(太ももの前側)や手指屈筋などが萎縮する傾向。
  • 嚥下(えんげ)障害:飲み込みにくさ、むせやすさなどがあり、進行すると食事が困難になることも。
  • 左右差や進行の不均一性:左右で筋力の差があったり、症状の現れ方が人によって大きく異なる。

進行は数年単位でゆっくりですが、徐々に体の動きが制限され、日常生活に支障をきたすことがあります。

4. 現在分かっている原因と研究の動き

封入体筋炎の原因は、明確には解明されていません。しかし、以下のような知見があります:

  • 筋肉の中に“異常なたんぱく質の蓄積”や“封入体(縁取り空胞)”が認められ、これはたんぱく質の分解や細胞の老化、たんぱく質代謝の異常が関与している可能性があります。
  • 同時に、筋肉の中に免疫細胞の浸潤(炎症性反応)がみられることがあり、“炎症”と“変性(老化や構造異常)”の両方が病態に関与していると考えられています。
  • 過去数十年にわたる研究により、筋病理学的特徴や診断基準が整備され、国内では指定難病として制度の対象となりました。

現在も、たんぱく質の異常蓄積を抑える薬、炎症と変性双方に対処する治療法、リハビリ・生活支援の効果などを検討する研究が続けられています。

5. 治療法

残念ながら、封入体筋炎を根本的に「治す」治療法は 現在も確立されていません

これまで試みられた治療法と、その現状は以下の通りです:

  • ステロイドや免疫抑制薬:定型的な筋炎とは異なり、封入体筋炎では効果がない、あるいはあっても一時的であることが多く、維持療法としては推奨されていません。
  • リハビリテーションおよび生活支援:筋力維持・関節の柔軟性維持、歩行補助具の利用、嚥下機能の確保、転倒防止など、日常生活の質(QOL)を守るためのケアが中心です。
  • 最新研究・新規治療の模索:たんぱく質代謝異常や細胞内の異常をターゲットにした治療法の開発や、機能維持を狙う新しいアプローチが国内外で検討されています。

つまり現時点での治療は「完治」ではなく、「進行をゆるやかにし、日常生活をできるだけ維持する」ためのサポートが中心という現実があります。

6. 患者数

国内における封入体筋炎(IBM)の報告では、2003年時点での有病率は 人口100万人あたり約9.83人 と推定されています。

ただし、高齢化の進展や診断技術の普及により、報告数は増加しているとの調査もあります。

全体としては「非常にまれな疾患」ではありますが、決して存在しない病気ではなく、今後も継続した調査と理解が求められています。

7. 家族・介護職が意識したい支援のポイント

封入体筋炎の患者さんを支えるにあたって、介護者・支援者が特に配慮したい点は以下の通りです:

  • 転倒・怪我の予防:筋力低下・バランス障害・徐々に進む歩行障害があるため、住環境のバリアフリー化、手すりや滑り止めの設置、適切な歩行補助具の導入を検討する。
  • 日常動作のサポートと自立支援のバランス:着替え、入浴、食事などの介助が必要になることもあるが、可能な範囲で「自分でできる」動作を尊重するよう配慮する。
  • 嚥下・栄養管理:嚥下障害が進行する場合、誤嚥性肺炎のリスクがあるため、食事形態の工夫、口腔ケア、必要に応じて医療・栄養支援を。
  • リハビリと機能維持:理学療法や作業療法を継続し、関節の拘縮予防、筋力の可能な限りの維持、歩行訓練などを、多職種連携で実施する。
  • 心理的サポートと情報共有:症状の進行がゆっくりで見た目に分かりにくいため、本人や家族が不安や孤立を感じやすい。定期的な情報交換、支援サービスの活用、患者団体や相談窓口の利用を検討する。

8. まとめ

  • 封入体筋炎は、中高年で発症する進行性の筋疾患で、筋力低下や筋萎縮、歩行障害、手指の不自由、嚥下障害などを特徴とします。
  • 原因は完全には解明されておらず、「炎症」と「筋肉の変性(たんぱく質異常など)」の両面が関与する可能性があります。
  • 決定的な治療法はなく、ステロイド等の一般的な筋炎治療に反応しにくいため、現在は対症療法と生活支援、リハビリが中心です。
  • 患者数は国内で報告上は少数ですが、高齢化とともに報告例が増えており、希少疾患とはいえ無視できない実態があります。
  • 介護・支援では、日常生活の安全確保、転倒防止、嚥下・栄養管理、リハビリ、心理的支援など、多面的なケアが重要です。

参考引用)公益財団法人 難病医学研究財団『難病情報センター』ホームページより。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
それでは、今回はこの辺で失礼いたします。

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