指定難病17。「多系統萎縮症(1) 線条体黒質変性症」とは?症状・原因・介護でできる支援について分かりやすく説明します!【介護】

指定難病17「多系統萎縮症(1) 線条体黒質変性症」とは?

1. 線条体黒質変性症の説明

ある日、手足の動きがぎこちなくなったり、歩くときにふらついたり――そんな変化が続くなら、それはただの老化ではないかもしれません。

線条体黒質変性症は、複数の神経系(運動、バランス、自律神経など)が同時に少しずつ機能を失っていく「多系統萎縮症(MSA)」の一型です。

この型では特に、脳の「線条体‑黒質(せんじょうたい‑こくしつ)系」と呼ばれる運動をつかさどる神経回路が障害され、歩行障害、筋のこわばり(筋強剛)、動作の遅さなどが現れます。

また、自律神経の異常により排尿障害や立ちくらみなども起こりやすく、進行性かつ神経全体に影響が及ぶため、定期的な医療と介護が必要となる指定難病です。

2. わかりやすい説明

体の中には、電気のコードのように「命令を伝える神経線(ケーブル)」があります。

このケーブルの中には、スムーズに信号を伝えるための被覆(コーティング)があり、これがなければ信号がもれてしまったり伝わりにくくなったりします。

線条体黒質変性症では、この被覆にあたる神経の一部が徐々に壊れ、命令が筋肉などに正しく伝わらなくなります。
たとえるなら、「コードが古くなって電気がスムーズに通らなくなるテレビのようなもの」です。

その結果、歩くときに足がスムーズに動かず、身体がかたく感じたり、バランスを取りにくくなったりする――これがこの病気の特徴です。

さらに、内臓や血圧、排尿といった“体の自動操作”をつかさどる部分も影響を受けるため、日常生活に広く影響が出やすいのです。

症状は人によって出る順番や強さが異なり、進行もゆっくりながら確実に進むため、早めの診断と対策が大切になります。

3. 主な症状

線条体黒質変性症では、以下のような症状がみられます。

  • パーキンソン様運動症状:筋のこわばり(筋強剛)、動作の緩慢、姿勢の不安定、歩行が遅くなる、動き始めにくいなど。
  • 歩行障害・バランス不良:ふらつき、つまずきやすさ、立ち上がりや歩き出しの困難など。
  • 自律神経症状:排尿障害(尿失禁、尿量変化)、便秘、立ちくらみ・起立性低血圧、発汗異常、勃起不全(男性)など。
  • 小脳症状や失調(場合によって):歩行のふらつき、言葉がもつれる、バランスが取れにくい、など。
  • 進行性で、複数の症状が重なる:時間の経過とともに、運動症状・自律神経症状・バランス障害などが重なり、日常生活が難しくなることがあります。

なお、この病気では、典型的な「振戦(ふるえ)」は少ないことが多く、「ふるえ」中心のパーキンソン病とは異なる点に注意が必要です。

4. 現在わかっている原因と研究の動き

  • 原因は完全には解明されていません。線条体‑黒質変性症を含む多系統萎縮症は、神経細胞や神経を支える細胞が少しずつ障害を受ける「神経変性疾患(neurodegenerative disorder)」に分類されます。
  • 病理学的には、脳内の「オリゴデンドログリア(神経を支える細胞)」に異常なたんぱく質(α‑シヌクレイン)がたまり、細胞の中に「封入体(glial cytoplasmic inclusions:GCI)」という構造が認められることが特徴です。これが神経変性を引き起こす鍵と考えられています。
  • どのようなきっかけでこの異常が起きるか(遺伝、環境、加齢など)は明らかではなく、研究は続いています。

5. 治療法

残念ながら、線条体黒質変性症には根本的な治療法は確立されていません

しかしながら、以下のような対症治療やケアが行われ、症状の軽減や生活の質維持を目指します:

  • 薬物療法:パーキンソン病に用いられる薬(例えばレボドパなど)が試みられることがありますが、MSA の場合は効果が乏しいことが多く、奏効性は限定されます。
  • 理学療法・作業療法・リハビリテーション:歩行訓練、バランス訓練、筋肉の柔軟性維持、転倒予防などを目的としたリハビリが重要です。
  • 自律神経症状への対処:起立性低血圧への対策、排尿・排便ケア、発汗異常への対応など。加えて、環境調整(住環境の整備、手すりや福祉用具の活用など)も必要です。
  • 総合的ケア・支持療法:栄養管理、誤嚥予防、転倒防止、心理的サポートなど、多職種による包括的ケアが求められます。

6. 患者数(日本国内)

この病気は指定難病のひとつであり、国内で認定対象です。

ただし、公開されている最新の全国患者数統計情報は、ひとまとめの「多系統萎縮症(MSA)」で管理されており、線条体黒質変性症だけの正確な人数は公開されていないようです。

多系統萎縮症全体では、比較的稀な疾患であるものの、決して “きわめて例外的” な病気ではなく、医療費助成の対象となるなど制度上の支援も整備されています。

7. 家族・介護職が意識したい支援のポイント

線条体黒質変性症の患者さんを支えるにあたって、家族や介護職の皆さまが特に配慮すべき点は以下の通りです:

  • 安全な住環境の整備:バリアフリー化、手すりの設置、滑り止め、歩行補助具や杖の導入などで、転倒・事故のリスクを減らす。
  • 無理のない日常生活:動作や歩行が困難になりやすいため、休憩を多めにとる、無理な負担を避ける、身体の変化に応じた支援を行う。
  • 膀胱・排尿ケア、自律神経症状への配慮:頻尿、尿失禁、起立性低血圧などへの対応として、排泄ケア、体位変換、適切な水分管理などを実施。
  • リハビリ・機能維持の継続:歩行訓練、筋力維持運動、バランス訓練、ストレッチなどを継続し、可能な限り生活の質を保つ。
  • 医療・福祉サービスの活用:指定難病制度による医療費助成、訪問リハビリ、福祉用具貸与・購入、相談支援など、制度を積極的に利用。
  • 心のケアと家族のサポート:進行性の病気であり、将来への不安や精神的負担が大きくなる可能性が高いため、家族の理解、情報共有、外部支援の活用を。

8. まとめ

  • 線条体黒質変性症は、多系統萎縮症の一型であり、運動・バランス・自律神経など複数の神経系に影響する進行性疾患です。
  • 主な症状は、筋のこわばり・動作の遅さ、歩行障害、自律神経異常(排尿・血圧など)、バランス不良など多岐にわたります。
  • 原因は不明で、根本治療は未確立ですが、対症療法・リハビリ・生活支援でQOL(生活の質)の維持をめざすことが可能です。
  • 患者数は少数ですが、制度の対象となっており、医療費助成や福祉サービスの活用が可能です。
  • 介護や支援では、安心・安全な環境づくり、自律神経・排泄ケア、継続的なリハビリ、心理的支援、多職種連携が重要です。

参考引用)公益財団法人 難病医学研究財団『難病情報センター』ホームページより。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
それでは、今回はこの辺で失礼いたします。

次の記事はこちらです。👇

コメント