指定難病8『ハンチントン病』とは?
1. ハンチントン病の説明
「自分の意志とは関係なく体が動いてしまう──」そんな症状が現れたら要注意。
ハンチントン病は、脳の大脳基底核などの神経細胞が徐々に壊れていく、常染色体優性遺伝の進行性神経変性疾患です。
不随意運動(身体が勝手に動く「舞踏運動」)や手足のぎこちなさ、認知機能障害、精神・行動の異常などが現れ、時間をかけて進行します。
発症年齢は30〜50歳代が多く、徐々に日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
非常にまれな疾患であり、治療とケアには長期の視点が必要です。
2. わかりやすい説明
この病気を簡単に言うと、「体の中の“体をコントロールする司令塔”が壊れて、命令がうまく伝わらず、手や足、顔が勝手に動いてしまうことがある病気」です。
たとえば、手を伸ばしていないのに手がふらふら揺れたり、歩こうとしていないのに足が動いたり……そんなことが起こるのが「舞踏運動(むどううんどう)」です。
また、ものを覚える力や考える力がだんだん鈍くなったり、気持ちが不安定になったりすることもあります。
病気の原因は、特定の遺伝子(HTT遺伝子)の異常で、この異常をもつ人は50%の確率で子どもに伝わる可能性があります。
つまり、血縁のある家族にも注意が必要です。
感覚や意識そのものは保たれることが多いため、「見た目には普通」に見えても、心も体も大きな変化が起きる――そのギャップを理解することが大切です。
3. 主な症状
ハンチントン病では、次のような症状があらわれます。
- 不随意運動(舞踏運動):本人の意志に関係なく、手足や体、顔が不規則に動いてしまう。
- 筋肉の動きのぎこちなさ、協調運動の障害:歩きにくさ、バランスの悪さ、手先の不器用さ(ボタンを留める、字を書くなど)。
- 認知機能障害:記憶力低下、判断力の低下、言語障害など。
- 精神・行動の異常:気分の不安定さ、うつ、易怒性、衝動性、社会性の低下など。
- 進行による日常生活動作(ADL)の低下:食事、着替え、歩行など、基本的な生活動作の困難化。
これらの症状は、人によって現れ方や進行速度に差が大きく、「舞踏運動が優勢な人」「認知・精神の変化が先行する人」「体の固さが目立つ人」など、多様なパターンがあります。
4. 原因と研究の動き
ハンチントン病の原因は、HTT遺伝子内のCAG三塩基(トリプレット)繰り返し配列の異常な伸長です。
正常ではこの繰り返しが少数ですが、異常に伸びることで異常なタンパク質(huntingtin)が作られ、これが神経細胞に毒性を持ち、特に大脳基底核などにある抑制性ニューロンが障害を受けると考えられています。
また、この病気は常染色体優性遺伝(片親から異常遺伝子を受け継げば発症の可能性あり)で、子どもへの遺伝の可能性が50%です。
現在、根本治療は確立されていませんが、遺伝子を標的とした治療法の研究や、病気の進行を遅らせる方法、新しい薬の開発などが世界的に進められています。
5. 治療法
現時点では、ハンチントン病を根本から治す手段はありません。対症療法とケアが中心となります。
主な治療・支援方法は以下の通りです:
- 薬物療法:舞踏運動や不随意運動に対して、テトラベナジンなどの薬が使われることがあります。また、精神・行動面の症状には抗精神病薬や気分安定薬が用いられることがあります。
- リハビリテーション:歩行訓練、ストレッチ、作業療法、言語療法・嚥下訓練など、身体機能と日常生活機能をできる限り維持するための取り組み。
- 生活環境と支援体制の整備:安全な住環境、介護・福祉サービスの活用、補助具、訪問看護や訪問リハ、支援制度の利用など。
6. 患者数
日本国内では、ハンチントン病の有病率は非常に低く、人口10万人あたりおよそ0.7人と推定されています。
また、令和5年度時点での指定難病医療受給者証の所持者数は約 900人 と報告されています。
7. 家族・介護職が意識したい支援のポイント
- 症状の多様性と不安定さへの理解:舞踏運動、精神症状、認知障害など“見た目に現れにくい苦しみ”があるため、ご家族や介護者が病気の特性をよく理解し、共感と対応力を持つことが重要です。
- 安全な生活環境の整備:転倒防止、滑り止め、手すり、歩行補助具など、身体の不随意運動やバランス障害に備えた環境づくりを早めに行うこと。
- 継続的なケアとリハビリ:身体機能だけでなく、言語・嚥下・精神面のケアも含めた多職種による支援が不可欠です。
- 遺伝性疾患としての配慮と相談支援:子どもや親族への遺伝、将来設計、心理的な負担などについて、遺伝カウンセリングや家族支援を早めに検討すること。
- 制度・地域資源の活用:指定難病制度、福祉サービス、訪問医療、相談支援団体など、公的支援やネットワークを積極的に利用し、介護負担と経済的負担の軽減を図る。
8. まとめ|ハンチントン病を理解して前向きに支えるために
- ✔︎ ハンチントン病は、遺伝性の進行性神経変性疾患で、不随意運動・認知障害・精神・行動の変化が混在する多面的な病気です。
- ✔︎ 症状には個人差が大きく、舞踏運動が目立つ人もいれば、認知や精神面の変化が先行する人もいます。
- ✔︎ 根本治療はまだ確立されておらず、薬物療法・リハビリ・環境整備などによる対症ケアが中心です。
- ✔︎ まれな疾患であるがゆえに、早期の診断・多職種連携・継続的なケアと支援体制が、ご本人とご家族の生活の質を守る鍵となります。
- ✔︎ 遺伝性疾患であるため、家族や遺伝に関する配慮、将来設計、心理的サポートを含めた包括的な支援が重要です。
参考引用)公益財団法人、難病医学研究財団『難病情報センター』ホームページより。
それでは、今回はこの辺で失礼いたします。
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