指定難病9『神経有棘赤血球症』とは?
1. 神経有棘赤血球症の説明
「体が自分の意思とは関係なく動き出す──」そんな異変に気づいたとき、それは神経の重大なサインかもしれません。
神経有棘赤血球症は、血液中に“トゲのある赤血球”(有棘赤血球=アカントサイト)がみられ、かつ神経・精神の異常(不随意運動、精神症状、認知症状など)を示す遺伝性の神経疾患群です。
指定難病としては主に、有棘赤血球舞踏病とMcLeod症候群が含まれます。
発症は成人期が多く、進行はゆるやかですが、長期的なケアが必要となるまれな疾患です。
2. わかりやすい説明
この病気を簡単に言うと、「血液も脳も、どちらも少しずつ“変化”していくことで、体と心のバランスがくずれてしまう病気」です。
まず血の中の赤血球が、通常とは違いトゲトゲの形になることがあります(けがをしやすいわけではありませんが、これは体の中の“手がかり”の一つです)。
そして脳の中では、本来スムーズに動くはずの「体の動き」や「感情・考え」が、突然乱れたり、うまく制御できなくなったりします。
たとえば、何もしていないのに手や足が勝手に動く「舞踏運動(コレア)」、急に気持ちが落ち込んだり、考えがまとまりにくくなったり、物忘れが増えたり――そんな変化が少しずつ現れてきます。
血が変わる病気と脳の病気が「セット」になっているめずらしい病気ですが、正しい診断とケアで、できるだけ長く安心して暮らすことが目指されます。
3. 主な症状
神経有棘赤血球症の方にみられる典型的な症状は以下の通りです。
- 不随意運動(舞踏運動):本人の意思とは関係なく、顔・手足・胴体が動く。舌や口まわりに起きることもあり、発音しにくさ・嚥下障害につながる場合があります。
- 協調運動障害・動作のぎこちなさ:歩きづらさ、バランスの悪さ、手先の不器用さ(ボタン操作・字を書く・食事など)など。
- 精神神経症状:強いこだわりや固執、行動異常、気分の変動、幻覚・妄想、衝動性、さらにはてんかん発作を起こす例もあります。
- 認知機能の変化:記憶力や判断力の低下、社会性の障害など。重度になると日常生活に大きく影響します。
発症の仕方や進行速度は個人差が大きく、たとえ同じ家系でも症状の現れ方が異なることがあるのがこの病気の特徴です。
4. 現在分かっている原因と研究の動き
この病気は、指定難病として認定されている「有棘赤血球舞踏病」と「McLeod症候群」が代表です。
これらには、それぞれ原因となる遺伝子が明らかになっています(VPS13A 遺伝子変異、あるいは XK 遺伝子変異)。
しかしながら、なぜ赤血球に刺さったような形の変化(有棘赤血球)と、脳の神経細胞障害が同時に起きるか、そのメカニズムは完全には解明されていません。
研究は続いており、将来的な治療法の可能性も模索されています。
5. 治療法
残念ながら、現時点で「この病気を根本から治す」方法は確立されていません。
対症療法および支援として、以下のような取り組みが重要です:
- 不随意運動に対する薬物療法(ただし効果には個人差があります)。
- 歩行や日常動作、言語・嚥下などに対するリハビリ。
- 安全かつ安定した生活環境の整備(転倒防止、清潔・快適な住環境、食事・栄養サポートなど)。
- 精神・行動症状への心理的支援と環境調整。
6. 患者数
日本国内では、同疾患群の患者数は非常に少なく、全国でおよそ100名程度と推定されています。
ただし、症状の多様性や診断の難しさから、未診断例・報告されていない例がある可能性も指摘されています。
7. 家族・介護職が意識したい支援のポイント
このような複雑で進行性の病気を支える家族や介護職には、以下のような配慮が重要です:
- 安全な生活環境の整備:不随意運動やバランス障害があるため、転倒防止のため手すり・滑り止め床・歩行補助具などを早めに準備する。
- 支援の継続と安定:リハビリ、食事・嚥下ケア、服薬管理、心理支援を継続的に行う体制を整える。
- コミュニケーションの理解と配慮:不随意運動や言語障害、精神・行動の変化などで本人が混乱したり、不安になったりすることがあるため、穏やかに寄り添う。
- 情報共有と家族のケア:希少疾患であるため情報が少なく不安も大きい。専門医・福祉サービス・相談支援センターなどを早めに活用し、家族間で情報を共有して支援を行うこと。
- 尊厳の保持とその人らしい生活の支援:できることを尊重し、過度の介助や制限を避け、本人の意思を尊重する。
8. まとめ
- 神経有棘赤血球症は、不随意運動・精神神経症状・認知障害を伴う希少な神経疾患群です。
- 血液中に有棘赤血球がみられることが一つの特徴ですが、脳の神経変性も同時に起こるため、両面からの理解が必要です。
- 根本治療は未だ確立されておらず、対症療法と継続的なケア・支援が中心です。
- 介護・支援では、安全な環境整備、リハビリ、心理的ケア、情報共有・支援制度活用が重要な要素です。
- 希少疾患であるため、早期の専門医受診と、多職種・家族によるチーム支援が、ご本人の尊厳と生活の質を守る鍵となります。
参考引用)公益財団法人 難病医学研究財団『難病情報センター』ホームページより。
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